今回は野球に限らずのテーマになります。今回は「術後早期のSLRの獲得」についてです。膝ACL再建術後や人工関節置換術後などの手術後早期に、筋力低下目的や早期離床・歩行獲得のために取り入れられる中で最もpopularなエクササイズかと思います。
術後リハビリ開始時にSLRがすぐにできる人とそうでない人どちらも見たことがありますが、できない人で苦戦する人も中にはいますよね。なかなか脚が上がらない時にどうすればいいかわからなくなる、なんてケースも経験の浅いうちは多いかと思います。
そういう時に必要なのは以下の2点です!
- SLRをできる身体の準備を整えること
- 患者さん自身がどういう動作を獲得するべきかを身体で覚えてもらうこと
もう少し具体的にいうと、炎症所見の管理をして可能な範囲で疼痛抑制をすることや腫脹軽減を図ることで防御性収縮の影響、関節原生抑制の影響を最小限にすることが1つ挙げられます。2つ目は健側下肢でSLRを実施することや、自己他動運動で患側下肢を動かすことで実際の運動感覚を身につけることが挙げられます。
私は整形外科クリニックに7年間勤務し、毎日術後早期の患者さんに関わっています。その中でいろいろなケースを見てきた中で「これは効果があった!」というものをピクアップして本記事を執筆しています。この記事を読むことで、SLRが上がらない患者さんにプラスの変化が出ること、これから術後早期の患者さんに関わる上で考えるべきことがわかります!

本日のお品書き
術後早期は炎症管理の徹底と筋収縮の反応のいいエクササイズを選択する
炎症管理
術後早期というのは言わずもがな炎症が起こります。炎症が起こることで感覚に個人差はあれ痛みが生じますよね。この痛みが防御性収縮や恐怖感を引き起こし、スムーズな動作を阻害する原因となります。皆さんも軽減があるかと思いますが、動かすと痛いとわかっていれば極力動かさないようにしますよね。
それと同様で、患者さんは術後から痛みと勝負しているのでいかに痛みが出ないようにするかを考えていますし、身体も痛みに抵抗するために強張るような形で反応が出るのです。このような状態では思うように身体を動かすことはできません。
加えて、術後の腫脹が強ければ関節包やそれ以外に存在する機械受容器への過剰刺激となり、大腿四頭筋に対する抑制反射が働きます。これを関節原生抑制と言います。これは特に内側広筋に対して強く働くことが研究結果から出ています。この辺りは参考資料を載せておきますので参照してください。
このように関節原生抑制が働いている状態で大腿四頭筋に力が入らないな〜、と悩んでも大腿四頭筋が働きづらいんだからそりゃ力は入るわけありませんよ!ってなります。そこで物理療法と運動療法を併用して少しでも大腿四頭筋の筋収縮が入りやすい状況を作る必要があるんです。
選択的エクササイズ
術後早期に大腿四頭筋に収縮を入れるエクササイズで真っ先に思いつくのが「パテラセッティング」だと思います。私自身もよく使う方法の1つです。ただ、簡易的かつオーソドックスなパテラセッティングって意外にエラー動作になりやすいエクササイズの印象があります。
そんな時に持ち合わせておきたいのが、選択的エクササイズのアイディアです。これという決まりがあるわけではないので正解はないと思います。自分の中でポジショニングや運動方法を変えて、より対象の筋肉に収縮が入りやすいエクササイズの選択肢を持っていればいいです。例えば、Wall pushとかTerminal Knee Extension(臥位もしくは長座位)なんかが挙げられます。
複数の選択肢を試した中で一番収縮感がわかりやすく、患者さん自身が大腿四頭筋の収縮を意識しやすいエクササイズを選択するのがいいです!

物理療法と運動療法の併用をする
アイシング
炎症管理として真っ先に思い浮かぶのが「RICE処置」だと思います。氷嚢を用いて20分間のアイシングを行うことで得られる効果は次の2点である、と研究報告があります。
- 大腿四頭筋の随意収縮力の向上
- 運動ニューロンプールの興奮性向上
さらに、20分間アイシングの冷却効果は60分間ほど持続するため、アイシング後の運動療法の際の関節原生抑制を抑えることも可能ということも報告されています。
超音波療法
急性期の場合、炎症憎悪を避けなければいけないため非温熱効果を活用して使用します。
- 組織の治癒促進
- 腫脹の軽減
- 疼痛軽減
上記3点の効果を期待して行います。
SLRの成功体験を積ませる
物理療法や徒手治療の後、選択的エクササイズでSLRを行う準備ができた!けど上がらない、、。という時には、SLRの感覚を患者さんに覚えてもらう必要があります。例えばSLRの挙上位までポジションをセットして等尺性収縮を用いたり、自動介助運動でSLRを反復したりなどなど。
足を上げようにも「どうやったら上がるかがわからない」や「あげたいけど上手く力が入りずらい」など患者さん自身がもどかしさを感じているケースが多い印象があります。何かきっかけを1つ掴めると案外、その瞬間からはスムーズにあげれるようになる人も多いです。
何か1つのきっかけを与えらるように、声がけや治療戦略、エクササイズのバリエーションの準備をできるといいですね!
まとめ
SLRをやってください、と指示をしても上がらないときは中々上がらないものです。患者さんも思うようにいかずネガティブになりやすいですし、セラピストも結果が出ずに焦ってしまいますよね。私自身も最初はそうでした。
でも、そんな時にもう1度自分の治療プログラムや声がけを見直してみてください。SLRが上がるようにするのことが必要なのではなく、大事なのはSLRが上がる準備を整えていくことです!
ぜひ、患者さんの治療に役立ててもらえればと思います!