投球障害の多くは、Overuseによる筋のコンディション不良や関節可動域の制限に伴う、機能性疼痛が多い印象を受けます。
そのため、可動域や筋柔軟性、筋出力の定期的なチェックが投球障害リスクを抑えるための鍵になります。これは理学療法士だけでなく、選手自身や指導者や保護者が日々のチェックとして行えればより効果的です。
今回はすぐに実践可能で、これから投球障害に関わっていきたいと思っている理学療法士に向けて、私なりのリスク評価を紹介しようと思います!

本日のお品書き
投球障害に対する評価① 肩関節可動域
肩関節内旋
まずは肩関節の可動域制限です。特に内旋可動域の制限に着目して評価します。
投球側の内旋可動域は、非投球側に比べて狭くなることが一般的に報告されています。これは繰り返さられる投球動作に伴う適応と考えられています。
文献等を調べていると「glenohumeral Internal rotation deficit(GIRD)」という言葉を見かけることがあると思います。詳しく調べたい方は検索してみてください。
スクリーニングとして、肩関節3rdポジションで内旋可動域の左右差を見ます。明らかな左右差(私の場合は20°以上の差)を認めれば可動域制限とみなします。また仰向けで肩関節外転90°で内旋可動域を評価する際は、内旋から外旋にかけての合計可動域での左右差を見ます。
肩関節の内旋可動域制限は上腕骨の正常な運動を阻害し、インピンジメントを引き起こしたり後方動揺性を呈する原因となります。
セルフチェックとしては、スリーパーストレッチの倒れる角度の左右差を見るのが簡易的かつ、ストレッチを導入しやすいため有効的と考えます。
肩甲上腕リズム
肩甲上腕リズムの破綻は肩関節への負担を増大させるため、投球障害に直結します。
肩の挙上動作や外転動作の際の肩甲骨の追従性を確認します。シュラッグサインが出ていないかどうか、左右差の確認をします。また、肩の動作開始前に肩甲骨のアライメントを確認するのを徹底しましょう。多くのパターンは下制・下方回旋位もしくは、前傾位の2パターンが多いです。
アライメント異常が見られる場合は、十中八九投球時に何らかの症状を自覚しています。また、筋出力の低下を認めるため必ずチェックするようにしてください。
肩甲上腕関節の動きを評価をする際には、CAT(肩甲骨固定下での肩外転運動)とHFT(肩甲骨固定下での肩水平屈曲運動)を用いて評価しましょう。
投球障害に対する評価② 肩甲胸郭関節の可動性
回旋動作と伸展動作、肩甲骨内転運動
投球動作の際の動きのドリルでよくSNSに情報が上がる動きはこれですね。回旋動作と伸展動作を評価し、十分な可動性が取れているかを確認しますが、パッシブとアクティブの両方で評価するようにしましょう。
「障害」が起きやすい要因の1つにpassiveでの可動域をactiveでコントロールすることができない、ということが挙げられます。そのため、passiveとactiveの両方を見るように心がけましょう。
また、伸展・回旋動作ともに肩甲骨の内転動作がなければ難しいです。これも左右差が見られるケースやアライメント異常からうまく動作ができない選手も多いため確認するようにしましょう!
最大外旋可動域:MER
投球動作でよく「腕がしなる、肘がしなる」などと表現される動きです。実際には体幹の伸展動作と肩関節の外旋動作の複合運動となります。「肘がしなる」は怪我のリスクが格段に上がるため、体幹から肩の動きで外旋動作が痛みなくとれているか、を確認しましょう。
この可動域に関しては正直個人差がありますし、投手と野手でも違いますので目標値を定める必要はないと私は考えています。そのかわり、代償動作なくスムーズかつ疼痛なく最大外旋可動域がでるかを確認しています。ぜひ参考に。
セルフチェックとしては、長い棒やバットを用いて自分で外旋をかけるなどが挙げられます。
HERT:Hyper external rotation test
肩甲胸郭関節の最後はHERTによる疼痛評価です。肩関節を過外旋・水平伸展させた際の疼痛評価になります。インターナルインピンジメントの再現性をとれるため有効的な徒手検査になります。
上記のMERとHERTで疼痛もしくは違和感あるケースにおいては、投球時に痛みがほぼほぼ出ます。だって投球の動きで必ず起きる動きなので。
投球障害に対する評価③ 腱板機能、肩関節周囲筋の評価
腱板機能と緩み
腱板機能、肩関節周囲筋においてはよく挙げられるのはLooseとCuffの機能です。
ただ、投球動作を反復し形態適応を起こしているケースではほとんどが後方組織のタイトネスにより、前方の緩みは出ています。
なので、私の場合は骨頭を徒手的に動かした際に明らかな緩みがある、または脱臼歴がある以外はLooseの精査はしません。
どちらかといえば、腱板筋の機能評価代を主にし、代償なくLift offが可能なのかとパピーポジションで外旋筋力を発揮できるかの2点を重視して評価しています。
Full canとEmpty canに関してはアライメント修正後に検査をするようにしています。前傾位や下方回旋位を呈している状態では適切な判断ができないためです。
肩関節周囲筋(前鋸筋、僧帽筋中下部)
肩関節周囲筋は前鋸筋と僧帽筋中・下部を中心に見るようにしましょう。
Elbow push testが代表的ですが、プッシュアップ動作や壁押しの動作での評価でも良いです。しっかりと肩甲骨を外転、上方回旋できているかを確認しましょう。
僧帽筋においては、四つ這いで片方の上肢をゼロポジションと90°外転に挙上した2パターンの肢位で検査します。上肢の伸展動作だけにならないよう、肩甲骨の内転を意識させるように声がけをしましょう。
案外見落としがちですが、僧帽筋機能の低下は多くの選手で見受けられるので忘れずに評価してください。
投球障害に対する評価④ 股関節周囲筋の柔軟性
股関節の柔軟性に関しては全てみれるに越したことはありません。ただスクリーニングに時間をかけられないケースでは特にSLRと内旋可動域だけでもチェックするようにしましょう。
投球障害に対する評価⑤ 体幹機能
最後は体幹機能です。体幹機能は一番始めに深呼吸で前胸部と上背部の両方が膨らむかを確認します。前胸部のみが膨らむケースではシュラック動作が出やすくなり、肩がすくみやすく動作エラーが起きやすいからです。
次に腹斜筋です。MMTの腹斜筋検査に上肢リーチに抵抗を加える形で私は評価しています。
最後は腹圧をかけた中で上下肢の動きをできるかを評価します。私はSCST:sahrman core stability testを用いてLevel3以下を陽性とみなします。
まとめ
文字をつらつらと長く書いてしまいましたが、いかがだったでしょうか。
私が最初投球障害の選手に関わる際は、あまり評価の引き出しがなかったです。とりあえずMERの可動域を見て、Cuffを評価してみたいな感じでした。
ただ、現在は上記以外にも多くの評価をものを身につけ判断しています。その中でもここは外さないほうがいい、というものを挙げさせていただきました。
投球障害と聞くと、なんとなく「難しくてどうしていいか分からない」となりやすいのではないしょうか。そんな関わり始めの理学療法士やトレーナーさんに少しでも参考にしていただければと思います。